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インドネシアの水道の実施体制


JICAの「インドネシア共和国上水道セクターに係る情報収集・確認調査報告書(2013年)」

1中央政府と地方政府の役割
(1) 施設整備及び運営維持管理に係る役割分担と整備方針
  「イ」国では、1999 年に地方分権化法とそれに伴う財政制度の再編成法が成立し、一挙に中央集権行政システムから地方分権システムへと転換が図られ、上水道セクターにおいても、地方自治体が管轄する PDAMが水道事業を運営し、水道事業の民間委託や民間資金の導入が進められている。また、「イ」国政府はインフラ財源が逼迫した中で、長期的なインフラ整備戦略として、 PPP 事業による民間資金と技術の導入を明確に表明している。
PDAM は県(Kabupaten)及び政令市(Kotamadya)に設立されている。PDAM による水道サービス地域は、地理的条件の制約や施設整備の遅れから都市部に限定されており、2011年実績で水 道普及率は全国平均で 27.0%に留まっている。その他の地域ではコミュニティ毎に湧水や井戸による水供給が行われている。
「イ」国の上水道セクターにおける、施設整備及び運営維持管理に係る中央政府/地方政府/ 水道事業体の役割分担と整備方針を表 1 -2-1 に示す。都市部の上水道事業は、その規模・整備方 針・事業形態等から都市(Urban)と小規模都市(Semi-urban)に区分される。また、複数の地方自治体に跨る水道の水源開発ならびにバルク水供給については、公共サービス機関(BLU: Badan Layanan Umum)の設立による事業実施が行われている。


(2) 水道料金
 水道料金の設定は、内務省の水道料金算定基準(No.23/2006)で定められており、州知事の監 督の下、県知事/市長の承認により決定される。同基準によると、水道料金は、1)公正で適正な価格、2)サービスの質、3)コスト・リカバリー、4)水の適正使用、5)透明性及び説明責 任及び6)水源の保護等を考慮して決定することと規定されている(2章2節)。また、水道料金は支払い能力に応じた料金設定となっており、利用者は4つのカテゴリに分類される。水道料金 は、給水原価(Basic Cost/1年間の配水量から無効水量を引いたものを運転コストで割り出され る1m3のコスト)及び供給単価を基に適正かどうか判断される。なお、運転コストは水源管理費、浄水コスト、送配水コスト、水道公社の人件費や管理費等が含まれる。また、水道料金は低賃金の 4%までという規定もなされている。
上述のとおり、水道料金は、水道公社の Director(社長)による提案に基づき、県知事/市長により決定される。なお、地方議会の承認を経てから県知事/市長が決定する地域もある。県知事/ 市長が水道公社の水道料金改定を承認せず、平均水道料金が給水原価を下回る場合、地方政府の予算(APBD)から補填をしなければならない(6 章 24 節)と定めている。水道公社は、状況の変化に応じて水道料金を見直すことができるとし、物価変動に基づいて 1 年ごとに調整され、通常は5年ごとに見直すことができる。ただし、いずれも県知事/市長の承認が必要である。

(3) 中央政府の上水道セクターに関わる組織  
 1) 公共事業省居住総局(Cipta Karya)
 2005 年 6 月に発布された大統領令「水供給システムの開発に係る政令(PP16/2005)」では、国民生活におけるあらゆる水供給システムとその下水処理の最終責任が大統領にあり、その具体的な行政責任機関が公共事業省であることを明記している。
公共事業省における担当組織は居住総局(Cipta Karya)で、計画部門は計画・プログラミング局(Directorate of Planning & Programming)が、技術部門は水道開発局(Directorate of Water Supply Development)が担当し、水道開発局は、技術計画・規制部、地域一部、地域二部、水道投資部、維持管理・Effort部の 5 部で構成されている。
公共事業省の主な役割は、地方分権化にともない、国家政策の策定や基準/ガイドライン/マニ ュアルの策定、調整業務になり、政策実施機関は地方政府となった。州政府は、州レベルでの開発計画・プログラムの設計・実施・工事監理を行なうとともに、中央政府と県/市政府との調整業 務を担っている。
  2) 水道開発支援庁(BPP-SPAM)
 2005 年に公共事業大臣官房内に設立された独立機関で、飲料水の開発、水供給システム改善の 促進や適正な水道料金のチェックを目的としている。理事会のメンバーは 5 名で、内 2 名が官僚、1 名が顧客代表、1 名が PDAM 代表、1 名が水道技術協会の代表。職員数は 24名(Engineer, Lawyer, Economist)で、その他に 15名の個人コンサルタントと 20 のパッケージでコンサルタント会社に 業務委託をしている。
 毎年PDAM からデータを収集して、PDAM の財務経営状況の評価(Healthy, Unhealthy, Sick)を行っている。インドネシア国の全ての水道事業体の評価が役割となっているが、現在は、PDAMの評価のみで民間水道会社の評価までには到っていない。データは会計検査院(BPKP)から収集 しており、Cipta Karya はBPP-SPAM のデータを流用している。
また、水道料金の改定の提言を毎年地方政府の首長に行っている。但し、貧困層に対する配慮 として 10m3/月以下の水使用については低料金にするようにしている。
  3) 保健省コミュニティ疾病管理・環境保健総局
 ADB の村落給水・衛生改善に係るプロジェクト(CWS&H)のカウンターパートになっており、村落給水の改善に係る責任を負っている。

(4) 地方政府の上水道セクターに関わる組織
 1) 州・県・政令市政府の公共事業局(Dinas PU)
上水道に関する開発・整備・普及などの実施は、州・県・政令市政府の地方公共事業局(Dinas PU)が担当している。地方レベルでは送配水本管・配水池・配水ポンプ場等については Dinas PU が施設建設を行い、完成後施設は PDAM に移管され運営・維持管理される。なお、PDAM の経 営状況が健全でない場合において、州政府または、地方政府が浄水施設の建設を行う場合も Dinas PU が施設の建設に関わる。また、PP16/2005によれば、PDAM が水道サービスを提供していない地域の水道システム開発は当該市・県の公共事業部が管轄する。実際の水道システムの建設は、村落において水利用者組合が設立されていること、及び水源水質が県の厚生局により確認されていることを条件に、当該郡の公共事業部により承認されることから始まる。水道システム建設後、 施設は村落に移管され、村落が独自で運転維持管理を行なうこととなる。水利用者組合は社会活 動の一環として位置づけられている。村長の要請により、PDAM が水利用者組合に対して運転維 持管理上のトレーニングを行なうこともある。


 2) 水道公社(PDAM)
 PDAMは州6、県及び政令市が管轄する公共事業体で、財務上は水道料金収入で運営する独立企業体としているが、水道事業の運営維持管理は水道料金収入で賄われているものの、配水管網の 拡張や大規模な修繕は地方政府の予算によって賄われており、現行では完全な独立企業体となっていない。
 また、PDAM の局長の任命権は自治体の首長にあり、水道料金改定の権限も首長にあるため、 水道公社の経営改善には首長のリーダーシップが欠かせない要件となっている。
 多くの PDAM は、1962 年に制定された地方政府企業法に基づき、政府投資に対する資金回収 として、配当を地方政府に支払っている。これらは PDAM の経営改善に対して、逆行することになるため、修正すべく国会での承認待ちになっている(Paragraph 30, P.13, Indonesia WaterInvestment Roadmap 2011-2014, 世銀 2012 年 1 月)。
 3) プロジェクト管理ユニット(SATKER)
 所管は州政府にあるが、国家予算による事業を実施するための組織であり、Cipta Karya による プロジェクトの実施・管理、および PDAM に対し資金確保のためのアドバイスおよび技術支援(コンサルタントによるビジネスプラン作成支援も含む)を行っている。
 4) 公共サービス機関(BLU)
 複数の地方自治体(州・県・政令市)に跨る原水の開発ならびにバルクウォーター供給については、BLU の設立が認められている。BLU については、政令7で以下のように規定されている。
BLU は政府内の実施機関として機能する。
BLU は料金体系を設定し料金を課すことができる。
(5) 地方分権の動向
 1997 年のアジア通貨危機に端を発したジャカルタ暴動、アチェの分離独立運動の高まりや長期にわたったスハルト大統領の政権交代、経済危機などにより、「イ」国の経済・社会システムは大きく揺さぶられた。経済危機と政治的混乱からの回復を目指し、1999 年に地方行政法(No.22)、中央・地方財政均衡法(No.25)の「分権化二法」が制定され、中央から地方への大幅な権限委譲が図られた。
  1) 地方行政法(No.22/ 1999)、中央・地方財政均衡法(No.25/1999)
行政面
中央政府の役割が、外交、国防治安、司法、金融・国家財政、宗教などに限定され、行政サービスの提供に関するほぼ全ての権限は県・市に移譲されることになった。行政面での特徴として は、州と県・市は原則として対等であり、中央政府の代理としての州の権限は大きく失われ、発言力も弱くなった。州は、複数の県・市をまたぐ行政分野や県・市が独自に遂行できない施策に関してのみ権限を有することとなった。
また、中央政府省庁の地方の出先機関は州・県・市政府に統合されることとなった。公共事業省では、各州に置かれていた公共事業局の権限と要員が州政府の公共事業局に移譲・移管された。
財政面
中央・地方財政均衡法に基づいて、州、県・市に対する一般交付金と特別交付金、歳入分与の 3 つ(総称して均衡資金と呼ばれる)が行なわれるようになり、今までの中央から州、州から県・市という縦の流れから、中央から州および県・市という横の流れに移行することとなった。しかしながら、こうした流れの変化は逆に県・市政府の中央への資金依存度を高める結果となり、財 政分権化とは程遠いものであったとされている。
 2) 地方自治法(No.32/ 2004)、中央・地方財政均衡法(No.33/2004)
分権化二法が混乱をもたらしたため、それぞれ見直しが行なわれ、地方自治法(No.32)、中央・ 地方財政均衡法(No.33)として改正された。
行政面
主な特徴としては、州政府の役割が明文化され、中央政府の代理として県・市政府の行政運営を指導できるようにするとともに、州の監督権限を強化したことである。
財政面
改正法では、多くの均衡資金の配分率が見直されるとともに、州に県・市の予算案の事前審査権が与えられた。また、地方政府は直接外国からの借入れを行なうことはできないとされ、借入れる場合には中央政府からの転貸ローンの形式をとることが明確に規定された。
これらの地方分権化は短期間で急速に進められたため、中央政府・地方政府ともに大きな混乱 が生じたといわれている。こうした一連の流れは、地方分権化で地方へ大きく振れた方針が、中央政府の権限強化によってまた揺り戻ったともいえるが、地方分権化の流れそのものを変えるまでには至っていない。
  3) 地方分権化の影響
 上水道セクターにおいても、2004 年の地方分権化法の見直し及び2005 年の水道法の施行によって、州政府が県/市政府の行政運営を指導すること、複数の県/市政府にまたがる課題について調整、支援を行なうこと、が明確にされた。
2004年の分権化法の見直し以降、中央政府の機能や監督権限を強化したものとしては、1)公共事業省令 No.294(2005年)により、水道公社の事業進展状況を監視及び政策提言するための組 織、水供給システム支援機構(BPPSPAM)を立ち上げたこと、2)財政改善行動計画(財務省令 No.53)およびビジネスプラン(財務省令 No.120)の作成義務づけにより、弱小水道公社の救済 措置に乗り出すことができるようになったこと、3)内務省令 12 号によって、コスト・リカバリーのための水道料金設定についてガイドラインを作成したこと、などがあげられる。しかしながら、3)水道料金については、内務省令が出たものの、地方分権化によって中央政府の地方政府に対する強制力がなくなり、事業経営状態の良くない水道公社を抱える地方政府が、内務省令に従って必ずしも水道料金値上げを行なったわけではない。
地方分権化後の地方政府への予算配分については、GDP 比で大きく増加している。世界銀行によると、地方分権化前(1994-97年平均)と分権化後(2001-02年)の上水道セクターへの予算支出額を比較すると、表 1-2-2 に示すように対 GDP 比が 0.23%(1994-97年平均)から 0.64%(2001-02年)へ増加し、州レベルでは約 5 倍、県/市レベルでは約 11 倍になったとしている8。地方政府の 事業予算は大幅に増加したとされるものの、現在でも上水道セクター予算の 8 割近くを中央政府が握っていることからも明らかなように、財政面においては中央から地方への財源移譲は完全に 行なわれておらず、中央政府への依存度は依然大きいといえる。


 一方、多くの権限が人材、組織、制度などで十分に行政能力を備えていない県/市に移譲されたことによって、事業の実施、モニタリングが十分に機能していないといった問題が全般的に顕在化してきている。
水道料金の値上げに関しては、@地方議会の承認後、県知事/市長の承認が必要となる場合、A 県知事/市長の承認が得られれば、地方議会には諮らなくていい場合、の 2 ケースがあるが、特に @の場合において、選挙対策などの理由から値上げには積極的でない地方議員による反対のため、 値上げが議会の承認をなかなか得られないといった例が出ている。
予算との関連では、地方議員の権限は大きくなったものの、議員の多くはあまり上水道に関心 がないため、上水道セクターへの予算配分額が少なくなってしまったところもある。地方政府で ある県/市の長が水道財政の独立性を理解できず、県/市財政の一部と心得違いしているケースも散見されている。
 地方分権化にともなう資産分与では、分権化前はお互いに管轄領域外の住民にも給水していたものの、地方分権化にともなう送配水施設の資産帰属を巡り、各県/水道公社同士がお互いの権利 を主張し合うなど問題となった例もある。さらには、地方自治体で行政区域への意識が強くなり、水源の所有を巡ってもめた例も上がっている。地方自治体の中には、地形条件の制約から十分な 水源を自らの行政区域内に確保できない上に、近隣の地方自治体との調整も難しくなる場合もあり、州政府がその調整に乗り出している。

2 インドネシア水道協会(PERPAMSI)の役割
 PERPAMSI は、1972年、全国でおよそ 50 ある PDAM のうちのいくつかの PDAM 局長が発起人となり組織された。現在では全国の 402 のPDAM が参加する大きな組織となり、主に以下の四つの役割を担っている。
 PDAM と各ドナー、政府、投資家間の調整
 PDAM のパーフォーマンス向上のための優良事例の紹介
 PDAM の運営における水道事業の職業原則の浸透
  PDAM 職員の知識、技能および経歴管理計画の向上のための動機付け
 そのための主な活動としては以下にリストアップされる。
  訓練と教育
 政策及び規則に関する陳情 y ドナー活動の調整
 新技術や手法の導入と普及
 企業プランの実践
 PDAM 広報活動
 認証制度の開発
 データ収集とベンチマーキング
 潜在的投資家の掘り起し
 他の水関連協会との関係強化
 飲料水を供給するという PDAM の究極目標に向けた清浄な水の利用の促進
  PRPAMSI の活動についての協会メンバーに対する有効性の自己評価

 PERPAMSI の会長はじめ主な役員には、現職の PDAM 局長が採用されている。運営の資金源につ いては、85%がメンバーである PDAM からの会員料で賄っており、5%がドナー(プロジェクトによるサポート)によるもので、10%が金利等の収入である。
PDAM の人材育成については、YPTD(Education and TrainingFoundation /Yayasan Pendidikan Tirta Dharma)が PERPAMSI のトレーニング実施機関として組織されおり、AKATIRTA(アカデミーベース)と LDP(トレーニングベース)に分かれている。
AKATIRTA は教育省認定の機関であり、ジョグジャカルタの近くにあり、ガジャマダ大学等の近隣の有識者を招聘し授業を行っている。
LDP は 20 のトレーニング・モジュールがあり、主にマネジメント層向けである。GTZ が作成を支 援したモジュールを USAID がアップデートする支援を始めるところである。その USAID の支援に は Distance Learning も含まれている。研修対象は、特に中級マネージャーで将来 PDAM の局長に昇進するにはこのコースの Certificate を有していることが内務省より求められている。研修内容の主な テーマは以下の通りである。
 Business Management,  
 Strategic Management,  
 Leadership,  
 Quality Management,  
 Operation and Maintenance,  
 Human Resource Management,  
 Asset Management, Finance,  
 Communication

 Cipta Karyaにおいても PDAM を対象としたトレーニングが行われているが、PEPAMSI のトレーニングとの違いは、Cipta Karya のトレーニングがオペレータレベルを対象とした技能トレーニングを中心としている一方、PERPAMSI は中・上級職員を対象としたマネジメント、リーダーシップ、財務を主な研修分野としている点であり、Cipta Karya との研修とは住み分けはできている。また、PERPAMSI の研修では、職業的能力を示すCertificate を得ることができる。
 さらに、2012 年からは、PERPAMSI 独自で国内における TwiningProgram を行っている。5つの PDAM(Palemban, Surabaya, Dempasar,Batan, Kab. Bandung)を Mentor として、全国15 の PDAM を Recipient として行っている。毎月Mentor が 1 回 Recipient のPDAM を訪問し、サーベイ、調査、協議、目標達成の行動を決め、宿題として次回の訪問まで進捗を確認し次のステップに進むという方式で行っている。費用負担については、Mentor の旅費のみ PERPAMSI が補助し、その他は、各PDAM が負担する。
さらに、PERPAMSIは、日本水道協会との間で活発な交流を行っており、2012 年 7 月に全国 18 の PDAMの局長レベルを対象とした日本水道協会主催の研修プログラムが開催されている。Mentorとなるべき PDAM 職員の研修について日本水道協会などの外部機関の協力を期待している。
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