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PDAMの現状と課題


 インドネシアの水道公社(PDAM=Perusahaan Daerah Air Minum.)を軸として、2010 年時点での水道についての法的枠組みとその影響についてまとめたレポートがある(資料77、著者は、Semarang にあるSoegijapranata Catholic Universityの講師のWijanto Hadipuro, https://www.researchgate.net/に2010 年 10 月掲載)。
 このレポートでは、著者の視点はSemarang市の水道の歴史から始まってインドネシア全国のPDAMに広がり、PDAM に対する地方自治体の要求と水道の普及が進まない現状、そして、経営改善のために導入された水道事業の民間委託の導入と課題。水道事業に関する十分な規制や法の執行が不備なために、地下水の過度の汲上と地盤沈下、水質悪化が進む一方で、ボトル入り飲料水が最も信頼できると認知され、普及が進んでおり、このような状況の改善への提案がされており、興味深い。  

PDAM の役割と義務;国民に水道サービスを供給。
@PDAM の歴史;
植民地時代(Semarang 市 PDAM が 1911 年に発足して以降)
1945 年独立後、PDAM は地方公共事業部門に所属。
1960 年代に地方自治体傘下の企業に。
1970 年代 PDAM への中央政府の関与が始まる。
1987 年、中央政府は水道事業を含む公共事業部門を地方自治体に引き渡す。
★PDAM の管理に中央政府の関与継続。
A政府関与の実態
1)公共事業省;施設と原水管理の技術面を担当。
2)内務省;PDMA の運営管理面。
3)財務省;PDMA の財政面。
4)保健省;水質面。
B市等の役割の拡大
PDAM は、経営状態にかかわらず、所有者である市等の自治体に対して歳入をあげる義務あり(2001 年法施行)。
地方自治法では、市または自治体の経済的自立が達成できないと→近隣の市または自治体と合併されるため、PDAM からの歳入は極めて重要。
CPDAM の経営状況の悪化
インドネシア水道協会及び公共事業省の調査(1998〜2005 年)によれば、ほとんどのPDAM は、事業運営上および財務上の問題に直面。
その主要な原因は外国からの融資で、1998 年の金融危機により、多数の PDAM が財政危機に直面した。全 319PDAM 中 128PDAM が外国融資を受けており、そのうち 35PDAM で借入金が増加した(1998 年⇒2005年)。
→融資が必ずしも業績の改善につながらず、経営が困難な中、125 のPDAM が料金引き上げ。→水道サービスの拡大に使える財政の余裕はなく、悪循環。
★インドネシアの多くの住民が、水の供給を PDAM に頼っていない。
PDAM の水道普及率;カリマンタンの一部とバリ;30〜40%、その他 30%未満(下図Figure1 各州の 2009 年の水道普及率)


DPDAM の水供給能力の不足を補うもの
○ミネラルウォーター;1973 年に販売開始、1978 年以降着実に拡大(Table 2)。
○地下水または浅井戸水;小規模水道や水売人が販売、自家用として使用。
○民間会社 Thames Water, Suez 等の参入(1993 年〜);効果は議論を呼んでいる。
水道に関する現行の法的枠組み
都市部の給水→厳しく規制された事業。


都市給水に関する多数の規制が、異なる政府機関によって異なるレベルで実施。
インドネシアの政策;憲法を最優先、以下、行政(政府)、立法(議会)、大統領、閣僚、地方および市による法令・命令等 。
1. 水資源に関する法律第 7/2004 号
2004 年、インドネシア政府は水資源に関する新しい法律を発表。→国内の水道事業運営における原則的変化の出発点として機能。
旧法(法律第 11/1974 号)と異なるのは、民間参入の余地を拡大したこと。
世界銀行は 1983 年〜2003 年、27 件の水道プロジェクトに総額 29.2 億米ドルを融資。
1999 年、世界銀行は融資の条件として、インドネシア政府が水道法とその施行規則を世銀の次の原則に基づいて改正することを求めた。即ち、国内の水資源政策は、水がすべての用途において経済的価値を持ち、商品として認識されるべきである。
2.PDMA に関連する規則
内務省令第 23/2006 号の規定では、PDAM はすべての原価を回収し、利益を上げるものとされており、PDAM の料金値上げの根拠となっている。
貧困層への普及拡大は 1998/2 内務省令等で規定されているものの、料金が安く設定されているため(表3)、原価の回収に寄与せず、PDAM や市などは積極的ではない。
普及拡大を PDAM の評価指標とする省令もあるが、地方自治法の壁に阻止されている。PDAM の定期水質調査の結果は公開されず、市民は蛇口から直接飲まず、煮沸して飲んでいる。
3.ミネラルウォーター(MW)業界の規制(通商産業省令 705/MPP/Kep/11/2003)
1)インドネシア国家規格(SNI)第 01-3553-1996 号を製品品質の規格として適用。会社は少なくとも年に 1 回、認定機関による検査を受ける必要あり。
2)飲料水の水質検査に関する保健省令に規定する次の要件に適合する必要があり。
定期的水質検査:大腸菌毎週 1 回、化学および物理成分 3 ヶ月に 1回、放射能分析 4 年に 1 回。
3)安全性を保証するために、製造業者は、医学・食品監視局からの認証が必要。
4)使用されるすべての材料は食品等級のものである。
この規制は、再充填 MW キオスク(RBWK)との差別化を図るために制定された。
4.再充填 MW キオスク RBWK に関する規制(通商産業省令 651/MPP/Kep/10/2004)
1)RBWK が供給する飲料水に関する国家規格はない。
2)飲料水の品質保証に関する規制は、ミネラルウォーターとほぼ同じであるが、定期水質検査の頻度は大腸菌検査毎月 1 回、物理化学項目検査毎年 2 回である。。
3)水質に関する立入り検査は地方および市が管轄。予算の関係で全事業所の検査は行わず、抽出した事業所の検査を年 1 回行うのみ。
4)ボトル入り飲料水会社に対して水質検査の報告が年 1 回必要であれば、RBWK は半年に 1 回でよい。
5)RBWS は他社ブランド名が印刷された 20?ボトル(又は缶)を使用してはならない。
顧客が容器をもって購入するときのみ、その容器に充填して販売できる。RBWS は在庫を持たず、MW を生産するのに必要とされる施設等を使用しなければならない。
★各地に PBWS の協会があり。
5.地下水の給水井戸に関する規制(中部ジャワ州法 6&7/2002)
使用量 100 ?/月以下又直径 2 インチ以下の家庭用の地下水汲上げは許可不要で、家庭用はすべて課税の対象外。しかし、100 ?/月以上の商業用もすべて許可を得ていない。
許可、課税、計量の必要がなければ、地下水過剰汲み上げは阻止できず、地下水枯渇。
法的枠組みの変更が与えうる影響

インドネシアは、自治体が引き続き水道の運営を監督するのか、その管理を民間に委ねるのかの岐路に立っている。ここでは、諸外国の例も見てみよう。
1.水利権(チリの場合)
原住民族が水利権の僅か 2%を保持し、土地の 4%しか灌漑できないでいる。水利権を管理、社会化するうえで、原住民の水利権が大きな課題となっている。
2.民間部門の参加
水道供給に民間部門の管理を導入する場合、貧困層が置き去りにされる可能性あり。
民間企業は利益の出やすい地域のみで給水し、利益の出ない地域をPDAM に委ね、高い料金を設定しがちである(Semarang など)。イギリスでは民間水道企業の利益率を制限した事例もある。都市部においても、民間業者によって課される料金を管理する必要あるが、公共及び私的利益のバランスを解決できていない。
また、PDAM の利益を制限する中央政府の規制に対し、地方政府は無視する傾向がある。
3.地下水汲上げ
公共の水道会社の管理の及ばない地域は、小規模水道供給業者にはビジネスチャンス。
地下水は比較的安価で一般的に高品質なので、信頼できる用水の供給源として民間の家庭用および工業用にも広く利用されている。
地下水の過剰な汲上げは、地盤沈下、地下水位低下、海水侵入を招く。
また、水質劣化と公衆衛生に深刻な影響を与え、しかも不可逆。
更に、その範囲は地理的、行政的、政治的に複数地域に及ぶため、政府、公共機関または私的機関による立法と規制が急務。Semerang 市では 9 p/年地盤が沈下している。
論理的帰結:このまま進めば水利権に関しては、商業利用には許可が必要であるが、生活用には不要である。このことが、将来紛争の元となるので、問題はそれをどう解決し、だれに利益をもたらすのかである。
民間利用の水利権を取得すれば原水の利用が許容されるが、この水利権を利用して水道事業を行なえば内務省令 23/2006 により利益率を 10%以下に制限される(因みにAetra の Themes や Palyja の Suez の内部利益率は 22%)。水道事業は、高額で長期の資金が必要であるため、利益率を 10%に抑えられると損益分岐点に達するまでの期間が長くなり、リスクが増大する。10%以下では、投資に見合う利益を上げられないので、民間事業者は水道事業ではなく、浄水場を運転管理する契約をして PDAMに用水を販売する事業に向かう。
それでも水道事業を行うとすれば、投資を可能な限り少なくするために、資金を融資で賄うことになり、利払いのため生産コストが高くなる。その結果、加入者に課される料金が高くなる。こうならないためには、先に述べた英国の例のようにように、民間の利益と住民の利益を均衡させる仕組みを作り、良好で公平な水道サービスを生み出すことが必要であるが、それはインドネシア政府にとって容易な技ではない。

 PDAM は原価の全額回収を達成すべきだが、水道料金は世帯の収入の 4%以下という規定があり、PDAM は貧困者へのサービス拡大に一層消極的になる。
その結果、貧しい人々は高価なミネラルウォーターに頼り、水道に接続していない企業も含めて地下水を利用する事になる。
インドネシア国規格 SNI(Indonesian National Standard) を制定するなどの政府の規制により、ミネラルウォーターが最も安全な飲料水であると人々が考えるようになった。
しかし、ミネラルウォーターの水質試験の結果は公開されていない。事実はどうであろうと、ミネラルウォーターは安全でより健康的であると信じられており、利用の拡大が続いている。
 結論と勧告
現在の規制とその将来にわたる影響に関して明らかになった事は以下の通り。
1.商業目的の水利権取得には許可が必要とされるが、生活用水の水利権には許可不要。
→チリの例のように生活用水の水利権が無視される恐れがある。
2. 水利権を商業利用する一方で、PDAM に対して原価回収、地方自治体の収入への寄与が強く求められれば、利益を生まない貧困層への給水拡大は PDAM の損失を招きかねない。
3.利益を重視する民間事業者は貧困層へ給水の拡大は望まず、利益を得る分野のみサービスを提供する傾向にある。
4.国家規格が制定されながら水質検査の結果が公開されないため、ミネラルウォーターが人々に最も信頼される飲料水となっている。
5.小規模の水道事業者が地下水を大量に汲み上げ、近隣に販売する事に対して、許可や課税等の規制なし。
水道に関する規制の改革は、特に以下の点で必須。
1.利益優先の民間企業としてではなく、地方の収入源として機能するように、PDAM を公共の利益を優先する事業体に変革する方法。
2.すべての地下水採取者が水の保全に責任を負うようにする方法。
3.飲料水の水質に関する規制が、全ての事業者に対して適用されるようにする方法。

最後に;インドネシア政府は、本報告で記述した問題に対処するために、関連する規制をあらゆるレベルで、速やかに変更すべきである。


なお、インドネシアの水道の実施体制については、JICAの「インドネシア共和国上水道セクターに係る情報収集・確認調査報告書(2013年)」にまとめられているので、参考に供したい。

情報提供シリーズの関連記事
資料77: Indonesia's Water Supply Regulatory Framework: BetweenCommercialisation and Public Service?、2019年4月、20190401W.pdf
上記以外の参考文献
1) インドネシア共和国 上水道セクターに係る情報収集・確認調査 報告書、独立行政法人国際協力機構 東南アジア・大洋州部 地球環境部、2013年11月
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