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チタラム川の水質汚濁と対応


 チタルム川は河川長269kmのジャワ島屈指の大河であり(編者注:ジャワ島最長の河川は、中部ジャワ州と東ジャワ州を流れスラバヤの北西でジャワ海に流れ込むソロ川、河川長 540km)、貯水量 30 億トンのJatiluhur ダムは、ジャカルタ市の 80%及びバンドン市の水道水源のほか、水力発電、農業用水の水源となっており、インドネシアで最も重要な川の一つである。しかし、世界中のメディアが、この川を〈世界でもっとも汚染された川〉と呼ぶに至っている。チタルム川の汚染の主な原因は、繊維産業の発展だ。1980 年代にジャカルタ東約 170km の町マジャラヤに新工業地帯が誕生してから、産業廃棄物投棄、工場排水流入によって「世界で最も汚染された川」になった(資料42)。1980年代には、川岸に林立する300 にも及ぶ工場が、有毒な廃水をチタルム川に流しはじめた。チタルム川流域の工場全体のうち、適切な廃棄物処理システムを備えているのは5 分の1程度にすぎなかった。また廃棄物問題は、地域全体の問題でもある。廃棄物処理システムがないため、流域に暮らす住民も、川をゴミ捨て場として利用している(資料116)。

 河川の水質汚濁が著しく進んでおり、流域の 2000 件の繊維工場等から毎日 2 万トン以上の廃棄物と 34 万トン以上の排水が流れ込んでいる(資料15)。浮遊する廃棄物で水面がすべて覆われている地区もあり、漁師は魚が全く取れないと嘆いている。水質の悪化は、農業生産にも損害を与えている。鉛濃度は米国基準の 1000 倍に達している。2018 年 2 月ジョコ大統領が現地を視察し 7 ヵ年浄化計画(IMF 及び ADB の支援を受け2025 年までに河川水を飲用可能に)を公表した。

 アジア開発銀行(ADB)はチタルム川の浄化のために既に、インドネシアに対して 5 億ドルの融資を行っているが、この計画が魅力的なビジネスチャンスでもあるとして、日本と中国が計画に参画する意向を表明している(資料16資料53)。
@ 日本;2018 年 2 月、武部環境政務官がヌルバヤ環境林業相と会談し、チタルム川浄化に協力することに同意。
A 中国;Shenzhen Fountain Corporation(中国の上水道管理会社)はジャカルタでのセミナーにおいて包括的な解決策を提示した。
 インドネシア政府は2018年1月、地元政府から権限を取り上げ、廃棄物処理規定を無視する起業家に厳しく対処すると約束した。地元住民は政府の新たな目標が達成されることを望んでいるが、その課題が極めて重いこと、工場主が賄賂により問題を切り抜けるという昔ながらの汚職体質が根強く残っていることから、どうしても懐疑的にならざるを得ない部分もあるようだ。

 日本の環境省は、「平成30年度(2018)アジア水環境改善モデル事業」の一環として『インドネシア国チタルム川流域の繊維工場排水を対象とした排水処理技術(ABR+DHS)実証事業』(主提案者が「株式会社日水コン」、共同提案者が「三機工業株式会社」「国立大学法人長岡技術科学大学」)を採択し、インドネシア国の排水基準等を満たし、かつ省エネルギー・低ランニングコスト型の排水処理技術の普及を目指すことを公表した。

 インドネシアでは、「世界で最も汚い川」であるチタルム川を浄化することが軍事作戦となった(資料67)。
西ジャワ州は、インドネシアの製造業の中心であり、州都バンドン市郊外の工業生産は GDP の 14%を占めている。主な産業は繊維工業であり、Zara、Gap、Adidas と H&M のような世界的なファッションブランドへの製品の供給元となっている。安価で豊富な水が利用可能で、それが 1990 年代以降の地域の急速な成長の鍵となった。約 2,800 の工場が、西ジャワで最長のチタルム川に用水と廃水を依存し、繊維の漂白や着色などの工程で、大量の天然資源を消費している。(2,700 万人がこの川の流域に居住)電子廃棄物およびその他の有害な汚染物質は何億もの人々の生活を脅かしている。汚染源は、繊維工場だけではなく、30 年以上にわたる都市化と工業化も影響を与えており、人口増加、集約的な農作業と肥料の大量使用、動物や家庭のごみ、森林伐採と土壌の浸食などが汚染の原因となっている。また、水銀や他の重金属も魚を汚染している。

 現在の対策と課題等について、政治的な背景及び経済事情も含めチタルム川の浄化の困難な状況について以下に紹介する。
対策:
@ 河川環境の劣化を受けて、大統領は 7年間にわたる浄化事業を開始;軍による浄化作戦を実施し、軍に対して既存の規制条項を改定、取り消し、変更する権限を与えた。→既存の法規制は効果がなかった事を意味する。
A 国家開発計画省の計画(2009〜2023 年);国家予算約 35 億 US ドル(さらにアジア開発銀行が 5 億ドルを融資)
洪水の調整や、土壌の劣化を防ぐ施策を実施したが、水質浄化、ごみの除去、産業廃棄物の処理の取組は始まったばかりである。
現状と課題;
@ 河川そのものは中央政府の管轄であるが、河川流域が多くの行政区域に跨っており、問題を複雑にしている。
土地の管理、廃棄物処理、地域社会や中小企業の取締り→地区又は州の管轄。
A 発生源を特定する事の困難さ(罰則は改善勧告後に適用される制度となっていることから、違反工場は改善勧告後に排出の位置等を変更して罰則を遁れる)。
繊維工場だけ汚染源ではない。また、家族も繊維工場の従業員である。
B 軍隊は直罰、排水停止、24 時間体制で、有効な取り締まりをしているが、7 年間という期限ある。→この 7 年間の間に効果的な恒久的制度を創設する必要あり。
C 市民団体は、軍隊投入前のデータ等がないため改善の程度がわからないとし、大統領を批判。
D 市民団体は軍の関与を否定的に評価。→大統領の政治的野心で、真に解決しようとの意思はないのではないか。
E 7 年間の大統領令の期間を超えた長期的かつ協調的取組が必要と米国大学教授が指摘。 長期的な投資(20〜30 年)と短期(2〜5 年)投資、及び活動には、軍だけでなく地元の村人と NGO を巻き込んだ持続可能な対策が必要。
F NGO は汚染工場で生産された製品を使用する国際ブランド名の公表を目指して、違反の事実を収集し、裁判で廃水の排出許可の取消しを勝ち取った。グリーンピースのデトックス(有害物質ゼロ)キャンペーン(2011年〜)に取り組んだ;2020年までにファッションブランドが有害化学物質の排出をゼロにする計画であるが、望んだほどの劇的効果は現れていない。
☆違反工場 3社のうち、操業の改善を約束したのは1社のみ。他の1社は名称を変更し、もう 1社は操業を停止したが、別の会社が代わって操業を開始。
G 工場管理の現場での不誠実な対応;
廃棄物量の虚偽報告や、生産量増大に伴う、廃棄物量の増大に対応する投資をせず。環境を守る規制があっても、あらゆる階層の従業員の心情としてはそれを順守しようとしているか疑問である。

最後に;
2019年1月現在、軍が関与して約10 カ月たつが、住民団体やNGO は西ジャワの繊維産業の違反が強力な長期的対策により実質的に規制されることについては悲観的である。
一方、通商大臣は、この地域の工場がどれほど大切か、またそれらの企業を支持する旨メディアに公言し続けている。

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資料15: インドネシア、チタルム川;世界で最も汚染された川の浄化、2018年5月、No.180501W.pdf
資料16: 中国と日本の"インドネシアの世界で最も汚れた川"をめぐる戦い、2018年5月、No.180502W.pdf
資料42: 「世界で最も汚染された川」 水質改善に本腰、2018年10月、181001_1J.pdf
資料53: 環境省はインドネシア等の水環境対策を支援、2018年12月、20181204-2J.pdf
資料67: In Indonesia, cleaning up the Citarum, 'the world's dirtiest river', is now amilitary operation、2019年2月、20190202W.pdf
資料69: 「平成30年度アジア水環境改善モデル事業」採択案件一覧 環境省、2019年3月、20190301-2J.pdf
資料116: 〈世界でもっとも汚染された川〉の最悪な現状、2020年2月、20200202-3J.pdf
資料127: WEPA第3期 報告書 - Water Environment Partnership in Asia、2020年4月、20200401-3j.pdf

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